「これはペンです」はなぜ教科書から消えた?誕生秘話と英語教育の最前線

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「これはペンです」はなぜ教科書から消えた?誕生秘話と英語教育の最前線
「これはペンです」はなぜ教科書から消えた?誕生秘話と英語教育の最前線
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昭和から平成にかけて、日本の英語教育を受けた世代なら誰もが一度は口にした名フレーズ「This is a pen(これはペンです)」。かつて中学1年生の英語の授業で「英語の第一歩」として徹底的に叩き込まれたこの例文ですが、現在の学校現場では完全に姿を消しています。「なぜあんな不自然な文を最初に習わされたのか?」「いつの間に教科書から消滅したのか?」と疑問に思う人は少なくありません。

2026年現在、小学校での英語教科化を経て中学校英語のカリキュラムは劇的な変貌を遂げています。文部科学省の学習指導要領改訂の歩みを振り返りつつ、かつて国民的例文だった「これはペンです」の誕生秘話から消滅の真相、そして現在の教育現場が直面するリアルな課題までを徹底的に追跡取材しました。

📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
  • 要点1:「This is a pen」が最初の例文に採用された理由は、文法(be動詞)と指さし確認による指導が最も容易だった戦後の構造言語学的アプローチに由来する。
  • 要点2:1980年代後半以降の「実践的コミュニケーション重視」への方針転換により、日常で使う必然性のない例文として教科書から一斉に排除された。
  • 要点3:2026年現在の英語教育は「自己表現・対話」が主流となり、中学1年冒頭から小学校で学んだ表現の運用が求められる一方、指導現場では生徒間の学力二極化が顕著になっている。

【誕生の歴史】「This is a pen」はなぜ最初の例文に選ばれたのか?

そもそも、なぜ「This is a pen」という、実生活で口にする機会がほとんどないフレーズが、最初の例文として定着したのでしょうか。英語教育史および教科書の編纂記録を紐解くと、当時の言語学と指導環境における明確な必然性が見えてきます。

戦前の旧制中学校から戦後の新制中学校へと移行した1940年代後半から1960年代にかけて、日本の英語指導は文法規則を体系的にインプットする「文法訳読式」および、文型パターンを反復練習する「オーディオリンガル・アプローチ」が主流でした。この教授法において最優先されたのは、「文の構造を視覚的かつ直感的に理解させること」です。

教師が生徒の前で実物を手に持ち、指をさしながら「This is a pen.」と発声する――。この指導法には、以下の3つの教育的メリットがありました。

  • 指示代名詞(This)の概念を即座に提示できる:手元にある物体を指す基本動作と単語を結びつけやすい。
  • 最も基本的な主語・be動詞・補語(SVC)の骨格を提示できる:「AイコールB」というbe動詞の機能を教えるのに、これ以上ないほど単純な構造だった。
  • 教室に必ず存在する安価な備品であった:ノートや机と違い、ペンは教師も生徒も机上に出しており、視覚的ジェスチャーと連動させやすかった。

「ペン」という単語自体がすでに日本語の中に外来語として浸透していたことも、アルファベットを学び始めたばかりの中学生にとって心理的ハードルを下げる絶好の素材でした。当時の教育現場においては、「実践的な英会話」よりも「言語構造の早期定着」が至上命題であったため、これほど合理的な教材は他に存在しなかったのです。

【データ比較】時代とともに激変した中学英語教科書の「最初のレッスン」

時代とともに文部科学省の学習指導要領は改訂を重ね、教科書会社各社(東京書籍『NEW HORIZON』や開隆堂出版『SUNSHINE』など)の巻頭レッスンは劇的に様変わりしました。昭和から2026年現在に至る教科書内容の変遷を客観的データとともに整理します。

時代・改訂期代表的な最初の例文・レッスン内容教育目標と指導アプローチ編集部の見解・評価
昭和期(〜1970年代)"This is a pen."
"That is a desk."
文法構造(SVC文型・be動詞)の早期定着。構文の反復練習(パターンプラクティス)。文法理解の効率は極めて高いが、実用性・発話意欲を削ぐ要因となった。
平成初期(1990年代)"Hello, I am Ken."
"Nice to meet you."
オーラル・コミュニケーション重視。挨拶と自己紹介からスタートする対話形式へ移行。「使えない英語」批判を受け、自然なコミュニケーションへの脱皮を図った転換期。
平成後期(2010年代)"Hi, my name is ... I like soccer."
"Are you from Canada?"
相手への興味・関心を引き出す質問や、自身の好きなことの共有。言語活動の多様化。文法事項を文脈(ストーリー)の中に溶け込ませる構成が完成した時代。
令和現在(2020年代〜2026年)"Welcome to our school!"
(小学校の既習単語600〜700語を前提としたプレゼン・対話)
小学校英語(教科化)との接続。情報発信、思考力・判断力・表現力の育成。「This is」を単体で教える時代は完全に終焉。最初から一定の長文対話が前提に。

データが示す通り、1980年代後半から1990年代初頭の改訂を境に、「This is a pen」は主要教科書から事実上姿を消しました。現在の中学1年生の教科書を開くと、1ページ目からフルカラーのイラストとともに外国人留学生との会話や校内案内、自己紹介のスピーチが展開されており、隔世の感があります。

【決定的な理由】教科書から消滅した背景と「使わない英語」の烙印

なぜ「This is a pen」はここまで徹底して排除されたのか。その引き金となったのは、「状況的リアリティの圧倒的な欠如」に対する強い批判でした。

日常会話の原則(プラグマティクス:語用論)において、人間が他者と言語を交わす際には「情報格差(Information Gap)」が必要です。双方がすでに「それがペンである」と目視で分かっている状況で、あえて相手に向かって「これはペンです」と発話するシチュエーションは、現実の人間社会ではまず発生しません。

英語教育の現場では、1980年代以降「コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(CLT)」と呼ばれる実用重視のアプローチが世界標準となりました。「意味のある文脈で、相手に情報を伝えるために発話する」という大原則に照らし合わせたとき、「This is a pen」は極めて不自然な例文の筆頭格とみなされるようになったのです。

さらに、国際化が進む中で「日本人は6年間も英語を勉強しているのに全く喋れない」という批判が経済界や世論から噴出。その象徴的アイコンとして「This is a penのような使えない英語ばかり教えているからだ」という言説が定着し、文部科学省および教科書執筆陣は、実用性のない文法偏重の例文を一掃せざるを得なくなりました。

一般に知られていない盲点とネットの誤解

現在、テレビ番組の企画やネットミーム(出川哲朗氏の「出川イングリッシュ」など)において、「This is a pen」は「日本人が最初に習うのに一生使わない笑い話のネタ」として頻繁にいじられています。しかし、ここには言語学的な誤解と盲点が存在します。

誤解1:「This is a...」という構文自体が使えないわけではない

「This is a pen」を丸暗記したことの弊害ばかりが語られますが、「This is 〇〇」という基本骨格そのものは日常会話で極めて高い使用頻度を誇ります。

  • 電話での名乗り:「Hello, this is Ken.(もしもし、ケンです)」
  • 他者の紹介:「Mike, this is my colleague, Sato.(マイク、こちらは同僚の佐藤です)」
  • 実物の提示・案内:「This is the document I mentioned earlier.(こちらが先ほどお話しした資料です)」

問題だったのは構文そのものではなく、「pen」という自明すぎる単語を組み合わせて孤立した文として提示した点にあります。

誤解2:ネイティブスピーカーも特定の文脈では「This is a pen」を使う

「ネイティブは絶対にThis is a penとは言わない」と断言されることがありますが、これも厳密には正確ではありません。言語使用の文脈(コンテクスト)によっては、ネイティブであっても口にします。

例えば、暗がりで手探りをしていて「何かに触れたが、どうやらペンらしい」と分かった瞬間や、万年筆の形をした録音機(ボイスレコーダー)を見て「No, look carefully. This is a pen, not a recorder.(いや、よく見て。これはペンだよ、レコーダーじゃない)」と相手の誤解を訂正する場面です。つまり、「相手がそれが何であるか正しく認識していない状況」においてのみ、この発話は自然な英語として成立します。

【実態検証】教育現場の生の声と2026年現在のリアルな葛藤

教科書が実用的に進化した一方で、2026年現在の学校現場からは新たな悲鳴も上がっています。小学校英語の教科化(小学5・6年生での正式教科化)から数年が経過し、かつて「アルファベットとbe動詞の初歩」から丁寧にスタートしていた中学校の現場は、今どうなっているのでしょうか。

都内および地方の公立中学校に勤務する英語教員への取材では、カリキュラムの高度化に伴うシビアな実態が浮き彫りになりました。

「現在の中学1年の教科書は、アルファベットの書き方や『This is...』『I am...』といった基礎文法は『小学校ですでにマスターしている前提』で構成されています。4月の初授業からいきなりまとまった英会話や短いスピーチが始まり、文法事項を体系的に噛み砕いて教える時間がカリキュラム上ほとんどありません」(都内公立中学校教諭・40代)

その結果、起きているのが「中1ギャップ」を通り越した「小中接続の深刻な二極化」です。小学校時代に民間の英会話教室や学習塾に通い、実践的なリスニングやスピーキングに慣れている生徒はスムーズに適応できる一方、家庭学習の環境が整っていなかった生徒は、中1の1学期時点で完全に英語への苦手意識を抱えてしまうケースが報告されています。

「『This is a pen』の時代は、実用的ではなかったかもしれませんが、誰もが同じスタートラインから文法のルールを論理的に積み上げていく公平さがありました。今は実践性を重視するあまり、論理的な文法理解が追いつかないまま感覚で英語を処理させられ、脱落していく生徒をどう救い上げるかが現場の最大の課題です」(神奈川県公立中学校教諭・30代)

【プロの結論】英語習得で「過去の遺物」を活かすべき人・捨てるべき人

「これはペンです」に代表される旧来の学校英語と、対話重視の現代英語。大人が改めて英語を学び直す際、どちらのアプローチを採用すべきかは、学習者の目的によって明確に分かれます。

旧来の「構造理解アプローチ」が向いている人の特徴

  • 論理的・構造的に物事を理解したい人:感覚的な会話練習よりも、文法規則(主語、動詞、修飾関係)をパズルのように組み立てる方が納得して進められるタイプ。
  • TOEICや資格試験のスコアアップが最優先の人:文法の骨格を正確に捉える力は、リーディング問題や長文読解において強力な武器になります。
  • 知的なビジネス文書を読み書きする必要がある人:文法破綻のない正確なフォーマルライティングには、構造言語学的な基礎訓練が不可欠です。

旧来の感覚を捨てて「実践対話アプローチ」に移行すべき人の特徴

  • 海外旅行や日常会話で即座に言葉を出したい人:「文法的に正しいか」を頭の中で組み立てる癖が邪魔をし、口から英語が出てこなくなるブレーキ(過剰なモニター機能)を外す必要があります。
  • 完璧主義で沈黙してしまう人:多少の文法ミスや前置詞の抜けを恐れず、身振り手振りと表情、単語の羅列でも意思疎通を図るトレーニングを優先すべきです。

【これはペンです】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:現在の中学英語教科書に「This is a pen」は1回も登場しないのですか?
A1:本文のメイントピックや重要例文として登場することは基本的にありません。ただし、代名詞「this」やbe動詞「is」の働きを解説する文法参考書やワークブックのミニ練習問題などで、極めて限定的に使用されるケースはごく稀に残っています。

Q2:かつて「This is a pen」を最初に教えたのは誰ですか?元ネタはあるのですか?
A2:特定の個人が作ったわけではありません。明治時代初期にアメリカから輸入された英語学習書(ピーター・パーレーの教科書など)や、戦後GHQの指導下で再編された文型重視の指導要領の中で、教室にある最も身近な名詞(pen, book, desk)を用いた例文が自然発生的に標準化していったとされています。

Q3:なぜ「This is a pencil」ではなく「pen」だったのですか?
A3:音節が短く発音しやすい1音節の単語(pen)であったこと、さらに万年筆やボールペンが当時の文明開化・近代化や「勉強」の象徴であったことが背景にあります。また、pencil(2音節)よりもリズムよく発声練習ができるという音声学的な指導上の利便性も大きく影響していました。

まとめ:単語の暗記から対話へ進化する英語教育の未来

英語教育の象徴だった「This is a pen」は、文法構造を最短で叩き込むための戦後の教育的要請から生まれ、時代のニーズが「実用的な対話力」へとシフトしたことで教科書から姿を消していきました。

その背景にあったのは、ただの流行り廃りではなく、「英語を学問としての記号から、世界とつながるための生きたツールへ変えよう」とした数十年におよぶ教育改革の軌跡です。現在求められているのは、過去の文法偏重への極端な嘲笑でも、無秩序な会話偏重でもありません。かつての「正確な骨格」を土台に持ちつつ、目の前の相手と文脈を共有しながら自分の言葉を紡ぎ出す――それこそが、2026年を生きる私たちが目指すべき英語学習の真の姿です。 (出典: これ は ペン です(Yahoo!ニュース))

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